2025年8月29日、映画『8番出口』が全国公開され、SNSを中心に爆発的な話題を呼んでいます。
原作は2023年にリリースされたインディーゲーム『8番出口』。
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わずか500円で販売されたこのゲームは、累計170万ダウンロードを突破し、世界中のプレイヤーを“異変”探しのループに引き込んだ作品です。
映画版は、原作ゲームの無機質な地下通路という舞台設定を忠実に再現しながらも、主人公の心理描写や人間関係を深く掘り下げ、“出口”というテーマに新たな意味を与えています。
作品概要

引用元:映画『8番出口』公式サイト
項目 | 内容 |
---|---|
タイトル | 8番出口(EXIT 8) |
公開日 | 2025年8月29日 |
監督・脚本 | 川村元気(『百花』『世界から猫が消えたなら』) |
主演 | 二宮和也(迷う男) |
原作 | KOTAKE CREATE(インディーゲーム『8番出口』) |
ジャンル | 心理ホラー/ループミステリー |
上映時間 | 95分 |

引用元:映画『8番出口』公式サイト
二宮和也/迷う男

引用元:映画『8番出口』公式サイト
河内大和/歩く男

引用元:映画『8番出口』公式サイト
小松菜奈/ある女
あらすじ
出口を探す男の“心の旅”
蛍光灯が灯る無機質な地下通路。
通勤客として歩いていたはずの男(二宮和也)は、気づけば同じ通路を何度も繰り返し歩いている。
壁には奇妙な案内が掲示されている。

引用元:映画『8番出口』公式サイト
男は“異変”を探しながら、出口を目指す。
しかし、通路には赤ん坊の泣き声、逆さまの看板、津波のような水流など、現実とは思えない現象が次々と現れる。
そして、彼の過去――別れた恋人(小松菜奈)からの妊娠報告、責任への恐怖、逃げたい気持ち――が通路の“異変”として具現化していく。
果たして男は、8番出口にたどり着けるのか?
そしてその先にある“出口”とは、何なのか?
見どころ①
“異変”というメタファー
映画『8番出口』の最大の魅力は、“異変”という概念の扱い方です。
原作ゲームでは、間違い探しのように通路の変化を見つけることが目的でしたが、映画ではそれが主人公の内面とリンクしています。
- 赤ん坊の泣き声 → 父になることへの不安
- 津波 → 過去の喪失体験(小説版では地元の友人が津波で行方不明)
- 逆さまの看板 → 現実の歪み、価値観の崩壊
“異変”は単なるホラー演出ではなく、主人公の心の揺らぎを象徴する装置として機能しています。
見どころ②
二宮和也の演技力
“迷う男”を演じるのは、嵐のメンバーであり俳優としても高い評価を受ける二宮和也。
本作ではセリフが少なく、表情と動きだけで感情を伝える難役に挑戦しています。
- 無表情から徐々に焦りが滲む目の動き
- 異変に気づいた瞬間の微細な反応
- ラストでイヤホンを外す“決断”の演技
彼の演技があるからこそ、観客は“迷う男”の心の変化をリアルに感じ取ることができます。
ちなみに個人的には、前半から中盤にかけての咳き込みや喘息っぽい設定はいらなかったと思います。
ストーリー上必要ではないし、人の咳き込む姿を不快に感じず意味なく見れる人間がどれほどいたのか、甚だ疑問の残る無駄な設定だったなと。
見どころ③
ループ構造と心理ホラーの融合
映画は、通路を何度も歩き直すループ構造を採用しています。
しかし、ただの繰り返しではなく、毎回“異変”が変化し、主人公の心理も揺れ動くことで、観客は常に緊張感を保ち続けます。
この構造は、観客自身が「次は何が起こるのか?」と異変を探すゲーム的な視点を持ちながらも、同時に「なぜこの男は出口を探しているのか?」という物語的な問いにも引き込まれる二重構造になっています。
ゲームとの違い
“体験”から“物語”へ
項目 | ゲーム版 | 映画版 |
---|---|---|
主人公 | 無名のプレイヤー | “迷う男”として明確な設定あり |
視点 | 一人称視点 | 三人称+主観視点の切り替え |
目的 | 異変を見つけて出口に進む | 異変を通じて自分と向き合う |
ストーリー | ほぼなし | 過去・恋人・妊娠・責任などの背景あり |
解釈 | パズル的 | メタファー・心理描写・寓意的 |
映画版は、ゲームの“体験”をベースにしながらも、そこに“物語”と“感情”を加えることで、より深い作品へと昇華されています。
小説版との違い
“語られない余白”の美学
川村元気監督は、自ら小説版も執筆しています。
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小説では、恋人との馴れ初めや津波の記憶、毛布の中の老人など、映画では描かれなかったディテールが補完されています。
しかし映画版では、あえて説明を省き、観客の解釈に委ねる構成を採用。
ラストで“迷う男”がイヤホンを外すシーンは、彼が現実と向き合う決断を象徴していますが、その先は描かれません。
この“語られない余白”こそが、映画『8番出口』の余韻と深みを生んでいるのです。
まとめ
“出口”とは、現実と向き合う覚悟
映画『8番出口』は、ただのホラーでも、ただのループものでもありません。
それは、現実から逃げたい気持ちと、向き合う勇気の間で揺れる人間の“心の出口”を描いた作品です。
異変とは、私たちが日常の中で見て見ぬふりをしている違和感。
通路とは、同じ毎日を繰り返す人生。
そして8番出口とは、自分自身と向き合い、前に進むための“選択”なのです。
川村元気監督の繊細な演出と、二宮和也の静かな熱演が融合した本作は、観る者に「自分は今、何番出口に向かっているのか?」という問いを投げかけてきます。
ゲーム版の没入感を超え、映画版は“感情”と“物語”で私たちを揺さぶる。
出口は、スクリーンの向こうではなく、私たち自身の中にあるのかもしれません。
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